Use Case

FT-IR差分スペクトルの
ピーク分離結合・構造の推定
【AutoStatSpectra】

手動ではピーク数や初期値に左右されやすい差分スペクトルに対して、K=0、つまり「ピークなし」モデルも含めて比較します。ピークがあるか、重なったバンドをどう分けるか、どの結合・構造に対応しそうかを不確かさ込みで整理します。

この事例で扱う解析課題

この事例では、Si/SiO2界面の水素化プロセスに伴うFT-IR変化を解析します。 Before HFを基準に、HF処理後、HFエッチング済みウェハを水素源として挟みアニールしたサンドイッチ処理後、酸化処理後の差分スペクトルを比較します。 Si-H領域ではピークが出る条件と出ない条件、Si-O-Si領域では酸化膜ネットワーク由来の広いバンド、C-H領域では負方向に出る脂肪族C-Hバンドが混在します。 こうしたデータでは、ピーク数、バックグラウンド、負方向バンド、ピークなしの扱いが手動フィッティングの条件に左右されやすいため、AutoStatSpectra でK=0も含めてモデル比較します。

AutoStatSpectraによるFT-IR Si-O-Si領域のピーク分離結果と結合・構造注釈

同じような解析で起こりやすい課題

  • ピーク数を先に決める必要がある
  • 初期値により局所解へ収束する可能性がある
  • 小さなピークとバックグラウンド変動の区別が難しい
  • 「ピークなし」の説明が目視判断になりやすい

AutoStatSpectraでできること

  • ピーク数を事後確率に基づいて比較
  • K=0モデルでピーク非検出も評価
  • バックグラウンドとピークを同時に推定
  • パラメータとモデル選択の不確かさを出力

対象データと解析条件

このデータは、Landová、Holovskýらの研究チームが、HFエッチング済みウェハを水素源としてSi/SiO2界面を水素化する研究のために取得・公開したFT-IRデータです。本ページでは、その公開FT-IR rawデータ VZ3_045_021_CVUT_D_0008_v1.csv から、Before HFを基準にした差分スペクトルのROIを5本切り出して解析しました。

データ出典

AutoStatSpectra解析条件

ピーク関数はGaussian、バックグラウンドは線形モデルとし、SMCによりKごとのモデル事後確率を評価しました。

  • Background: Linear, Peak function: Gaussian
  • Noise: Gaussian
  • C-H領域のみ負方向バンドを符号反転してフィットし、結果は元の負符号で解釈

ピーク数の事後確率推定とフィッティング結果

Si-H領域: After HFはK=1、After OxdはK=0

After HF - Before HF のSi-H領域では、K=1が事後確率82.0%で最も支持されました。推定ピーク位置は2098.51 cm-1で、HF処理後のbare Si表面に由来するSi-H/Si-H2伸縮振動に対応します。

After Oxd - Before HF では、同じSi-H探索範囲でK=0が98.9%で最も支持されました。

Si-H領域: 分離ピークの推定対応

推定ピーク位置 推定された結合・構造
2098.51 cm-1 Si-H/Si-H2伸縮振動、HF処理後のbare Si表面由来
After HF - Before HF のSi-H領域におけるKごとの事後確率と自由エネルギー比較
After HF - Before HF / Si-H領域のモデル比較。K=1が最も支持された。
HF処理後Si-H領域のK=1フィッティング結果とHF処理後Si表面由来Si-Hピーク注釈
HF処理後Si-H領域のK=1モデル。HF処理後Si表面由来のSi-H/Si-H2伸縮が支持された。

Si-H領域: After OxdのK=0モデル

After Oxd - Before HF のSi-H領域におけるKごとの事後確率と自由エネルギー比較
After Oxd - Before HF / Si-H領域のモデル比較。K=0が最も支持された。
酸化後Si-H領域のK=0フィッティング結果
酸化後Si-H領域のK=0モデル。ピーク成分を追加しない線形バックグラウンドモデルが最も支持された。

Si-O-Si領域: 広いバンドと高波数側応答を分離

After Sandwiching - Before HF のSi-O-Si領域ではK=6が35.4%で最も支持され、973.15、1034.25、1076.50、1146.82、1229.90、1248.10 cm-1の6成分として分離されました。 元データはFTIR-ATR測定で取得されているため、高波数側のTO/LO応答も含めて結合・構造を整理しました。

Si-O-Si領域: 分離ピークの推定対応

推定ピーク位置 推定された結合・構造
973.15 cm-1 Si-OH / 化学酸化膜由来Si-O伸縮
1034.25 cm-1 SiOx亜酸化物 / 低波数シフトTO成分
1076.50 cm-1 Si-O-Si非対称伸縮(TO3相当)
1146.82 cm-1 Si-O-Si高波数側応答(LO4相当)
1229.90 cm-1 Si-O-Si高波数応答(TO4 / 低波数シフトLO3候補)
1248.10 cm-1 Si-O-Si高波数応答(LO3相当)
After Sandwiching - Before HF のSi-O-Si領域におけるKごとの事後確率と自由エネルギー比較
After Sandwiching - Before HF / Si-O-Si領域のモデル比較。K=6が最も支持された。
Sandwiching処理後Si-O-Si領域のK=6フィッティング結果と結合・構造注釈
Sandwiching処理後Si-O-Si領域のK=6モデル。FTIR-ATRで観測されるSi-O-SiのTO/LO応答を複数成分で表現している。

C-H領域: 負方向バンドを符号反転して評価

C-H領域では元の差分スペクトルで負方向のバンドが支配的だったため、符号反転してフィットしました。K=7が67.0%で最も支持され、脂肪族C-H伸縮帯を局所環境差や重なりを含む7成分として表現しました。

C-H領域: 分離ピークの推定対応

推定ピーク位置 推定された結合・構造
2849.90 cm-1 脂肪族CH2対称伸縮
2855.16 cm-1 脂肪族CH2対称伸縮(局所環境差)
2861.67 cm-1 CH3対称伸縮 / CH2対称伸縮の重なり
2917.33 cm-1 CH(メチン)伸縮 / CH2非対称伸縮の低波数側
2917.94 cm-1 脂肪族CH2非対称伸縮の主成分
2921.40 cm-1 脂肪族CH2非対称伸縮の高波数側成分
2960.85 cm-1 脂肪族CH3非対称伸縮
After Sandwiching - Before HF のC-H領域におけるKごとの事後確率と自由エネルギー比較
After Sandwiching - Before HF / C-H領域のモデル比較。K=7が最も支持された。
Sandwiching処理後C-H領域のK=7フィッティング結果と結合・構造注釈
Sandwiching処理後C-H領域のK=7モデル。元データでは負方向のC-H差分バンドとして解釈する。

まとめ

本事例では、公開FT-IR差分スペクトルにAutoStatSpectraを適用し、重なったバンドのピーク分離、K=0を含むピーク有無判定、ピーク位置に基づく結合・構造の推定を行いました。

Si-H領域ではAfter HFでHF処理後Si表面由来のK=1ピーク候補が支持され、After OxdではK=0が支持されました。Si-O-Si領域とC-H領域では、分離数の不確かさを事後確率として確認しながら、広いバンドや負差分バンドを統計モデルとして整理しました。

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